2018/11/20 19:00
道具のはなし
写真の道具は鑿のような形をしていますが、革を裁断するための革包丁です。
実はこの革包丁はいろいろな道程をたどってきた道具なのです。
この包丁、もともとは古い鉄鋼鑢(やすり)でした。
私のもとにやってきのは、小学校のころ、工作のために父親の道具箱の中に入っていたものを拝借したのがきっかけです。
父親もまた、造船をしていた亡き祖父から受け継いだものだと聞きました。
ミニ四駆やルアーづくりなど、工作人生をともに歩んでいましたが、大学に入って工芸を学び始めるころにはいよいよ錆びついて摩耗し、鑢としての使命を終えて私の道具箱の中で眠っていました。
少しして二十歳の頃、工芸の授業でみた刀鍛冶の姿に感化され、幼少より憧れていた鍛冶仕事をしてみようと刃物を鍛造することにしました。
手頃な鋼材を探しているうちに大きさも手ごろなあの古い鑢が目に入り、これで剣鉈のようなナイフを作ろうと試みたのです。
しかし、もともと炭素量が多くて硬い鑢の鋼は、コークスで何度も加熱されるうちにますます硬く脆くなっていたようで、研磨中にあっけなく折れてしまいました。
そうして失意と共にまたしばらく抽斗の底へ。
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それから10年近くが過ぎ、キチジツとして革の仕事をし出していたあるとき、刃幅のせまい革包丁が必要になりました。
私は新たな道具が要るときに、店まで買いに行くことが、もどかしいような遠回りで億劫な感じがしてどうも苦手なのです。
また丁度いい道具というのは中々見つからないということもあり、いつも手近にあるもので拵えてしまいます。
手頃な鋼材を求めて作業机をあさっていると、いつかの折れたナイフが。
形も厚みも都合がよく、うってつけです。懐かしさを感じつつもグラインダーで形を整え、ストックしてあった古い金槌の柄にすげました。
相変わらずカチカチに硬く、研ぎあげるのは苦労しましたが、長切れするいい革包丁になりました。
生きては会えなかった祖父ですが、その鑢が今こうして形をかえ、また私の仕事を支えています。
そのうちこの包丁で息子がこっそり木を彫ったり、孫が土を掘ったりして、ものを作ったり直したりする暮らしとともに、なんとなく引き継がれていけばなあと思うのです。
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おわり