2018/11/30 02:03
革を手縫いするときにつかう麻糸。
じつはこれにも結構手がかかっております。
工房で手縫いに使っている糸は麻糸に蠟を引いたものです。
糸の中心まで蠟を染み込ませてあるので擦り切れにくく、粘り強いです。
縫いあげると糸の締まりもよく、光沢もある特製の麻糸です。
この麻糸ができるまでの工程をご紹介します。
まずは蠟づくり
蠟引きにつかう蠟は、蜜蝋と松脂でできています。
国産の蜜蠟が出回る時期に入手しておき、冬の間に一~二年分をまとめて作って置きます。
材料の蜜蝋と松脂を子割にして小鍋に入れ、ストーブにかけてゆっくり溶かします。
材料の配合にコツがあり、蜜蠟が多いと粘りがなく、松脂が多いとべたつきます。
これを丁度いいバランスになるよう調整して作っていきます。
ストーブはニッセン(日本船燈)のMW-1。
赤い丸型のタンクにころんとしたほやの丸窓が特徴のかわいいやつです。
鍋の中で次第に溶け始めると、部屋に蜜蠟と松脂の匂いが立ち込めます。
甘いようで煙いような独特の匂い。大学時代の彫金室を想い出します。
溶けた蠟は気泡が抜けるまで待ち、使いやすいよう型に流して冷まして小さい塊にしておきます。
型は粘りがあっても抜けやすい、シリコン製のチョコレート型を使っています。
バレンタインの時期に買ったのでハート型。
いよいよ蠟引き
蠟ができたらいよいよ麻糸に蠟を引いていきます。
蠟引きする際は革の端切れに蠟を包み、これを手にもって麻糸を挟んでこすりつけます。
摩擦熱で蠟が溶ける温度をキープしながら蠟を染み込ませます。
こうすることで糸の中心まで蠟が入るとともに、糸の表面の余分な毛羽立ちも取り除きます。
あまり長い時間やると手を火傷してしまうので、一日に作れる糸は限られています。
上段が蠟引きの終わった糸。
うまく芯まで蠟が入ると毛羽立ちがなくなって色が濃くなり、透明感のある光沢が出ます。
また蠟を挟んでいる革の色も少し溶け込み、温かみのある色合いに。
こうして一本一本丁寧に仕上げた麻糸を使って手縫いをしております。
ミシンの整ったステッチの美しさとはまた違った、温かみのある風合いが生まれます。